日本のアルパカたちの個性を糸にして届ける/「アルパカな人」第1回:さくらてあみさんインタビュー

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こんにちは、群れなす、アルパカ編集室です。
アルパカにまつわる人たちのお話を聞いていく「アルパカな人」の連載を始めます。
第一回は、さくらてあみさんです。
さくらてあみさんは、日本のアルパカたちの毛を糸やニット製品、織物にする活動をしています。
見ているだけであったかくなりそうなアルパカの毛糸や製品たち。

1頭ずつ個体別に分け、個性が伝わるようなニット製品づくりを大切にしているさくらてあみさん。
どのような想いでアルパカの毛を紡いでいるのでしょうか?お話を伺っていきます。

使い道のない高級品。アルパカの毛を製品に

−さくらてあみさんは、今回お話をしてくださるのが広報担当のあゆみさんで、製作をしているのはお母さまのますみさんなんですね。

あゆみさん:はい。さくらてあみのアルパカ事業は2008年に母が始めました。時々作業の手伝いもしますが事務的なことやinstagramへの投稿など広報を私が担当しています。

−あゆみさんもアルパカがお好きなんですか?どのようなきっかけで活動を始めたのでしょうか。

あゆみさん:アルパカが好きだったのは私でして、中学校の社会の地理の教科書に載っていたアルパカがとても気になって。20代の頃、那須にアルパカがいると知って母を連れて那須アルパカ牧場に行ったんです。母はずっとニット業界にいて「アルパカは高級な素材」であることを知っていたので素材として興味があったようです。
初めて生のアルパカと出会って、見た目の可愛さはもちろん、付かず離れずの距離感で興味があるけど寄ってこない…そんな性格のアルパカに親近感が湧きました。
年間5、6回は東京から通っていましたね。私はアルパカが好きで、母は毛が好きで。
ある時、アルパカの毛を毛刈りしても利用方法がなく捨てられていることを知りました。母は、毛を捨てるのはもったいないと思い、毛を購入して製品を作ってみることにしました。そこから、一人で年間100kgものアルパカの毛のゴミを取って洗って…とコツコツ活動を始めて。出来上がった製品を見てもらい、牧場さんから「ぜひアルパカ製品を作って欲しい」とおっしゃっていただき、製品を作ることになりました。

那須アルパカ牧場のアルパカたち

−たくさんのアルパカの毛を、さくらてあみさんが買い取っているんですか?

あゆみさん:基本的には、牧場さんから毛をお預かりして、製品にして戻すという流れですね。
牧場にいるアルパカたちには名前がついていますので「〇〇ちゃんの毛で作ったマフラーです」と牧場さんが製品を販売します。さくらてあみとして販売するものはそういうもの以外の毛を買い取らせていただいています。
牧場さんへは製品はもちろん、洗い終わった原毛や、糸の状態で納品することもありますね。
原毛や糸は牧場さん馴染みの羊毛作家さんに渡して作品にしたりと、使い道も広がっています。

アルパカの毛はとにかく「ごみ取り」が大変

−毛刈りされたアルパカの毛はどのような手順で製品になるんでしょうか?

あゆみさん:そうですね、まず牧場から「この子の毛でお願いします」と毛が送られてきます。飼育スタッフさんが撮ったその子の写真やコメントも同封されていてとても愛を感じます。その時に性格や年齢などが分かるので、今後製品にするときの参考にしたりします。やっぱり年齢を重ねた子の毛は若い子の毛に比べて硬さがあるので、なるべく肌に触れないような製品にしようかな、という感じです。
受け取った原毛はまずごみ取りをします。アルパカの毛は細いため、しっかりゴミや砂を絡め取っています。手で取れないような細かなゴミをピンセットで取り除きます。しっかりゴミを取り除いたら、次は毛を洗います。ごみ取りから洗うところまでをうちでは「洗い」といいます。本当にこの「ごみ取り」が大変なので、アルパカを飼育している施設の方も「やってみたけど大変で出来ない…」という声をよく聞きます。

−このお話を聞くと、先ほどますみさんが年間100kgを一人で洗っていたということがどれほど大変なことかわかりますね。

アルパカの原毛。草や砂がたくさんついている

あゆみさん:現在はチームが出来ました。3.11の際、被災地に雇用を生み出すため「洗い」お願いするようになったのがきっかけで経験ができ、母が各所に指導に行き「洗い」や「織り」の分業が出来るようになりました。「洗い」の後は毛の繊維のかたまりから繊維を引き出し「カーディング」をします。「カーディング」とは犬や猫毛をすくときに使うスリッカーブラシをのようなもので毛の繊維の方向を揃えていきます。そして電動糸車にちょっとずつ、寄った毛を入れて糸にしていきます。

少しずつ毛をよって電動糸車に入れて糸にしていく

糸ができる量ですが、およそ1kgの毛の中に「遊び毛」やゴミ・砂を取ると800g、それを糸にすると600~700gの量になります。アルパカ1頭では(2年に1度毛を刈る子の場合)2〜3kgの毛がとれます。
アルパカの特徴として、白以外にも黒や茶、グレーなど毛の色のバリエーションの豊富さがあります。その天然の色を生かすため、染色をしません。
そしてやっと「編む」ですね。手袋やマフラー帽子など、手編みで編んでいきます。

アルパカは身につけられる。個性が届くものを作っていきたい

−糸になる工程を伺っていると、1頭のアルパカだけの製品を作るというのは時間や手間暇がかかるんだなということが分かります。

あゆみさん:もったいないから何かに出来ないか?から始まったアルパカの毛の加工ですが、活動を通してアルパカが大好きな人たちと出会って、アルパカはただ高級な良い毛を持った可愛い生きものではない、とても稀有な存在だなと気がついたんです。例えばレッサーパンダはとても可愛いですが、その毛を加工してファンが身につけられるわけじゃない。アルパカは可愛くて、個性的でファンもついていて、何よりその毛を製品にして身に付けることができる。原材料のキャラクターが見える動物、なかなかいませんよ。
ですから、個性が見えることが日本のアルパカ製品の特徴だと思ってさくらてあみは1頭1頭の製品にこだわっていきたいと思っています。


アルパカはそれぞれの性格や外見の違いがあって知れば知るほど好きになります。
さくらてあみさんは日本のアルパカファンに寄り添ったものづくりをしていらっしゃいます。ぜひ立ち寄った牧場でニット製品に出会ったら、その想いにぜひ触れてみてください。
アルパカを飼うため東京から北海道へ移住なさった話など、まだまだ色んなアルパカ話をお伺いできそうです。

DATA:

さくらてあみ
WEB site : https://sakura-nadeshiko.jp/
instagram: https://www.instagram.com/sakura.teami26/